電磁気学 I 講義ノート
— 2018 年度後期 —
棚橋 誠治
2019 年 1 月 12 日ミスタイプ修正版
目 次
1
はじめに:遠隔作用と近接作用1
2
電場と電荷密度4
2.1
クーロン力と電場. . . . 4
2.2
重ね合わせの原理とベクトル場の足し算. . . . 4
2.3
電荷密度と体積積分. . . . 5
2.4
媒介変数を用いた体積積分の計算. . . . 8
2.5
演習問題. . . . 12
3
ベクトル場の微分・積分(ベクトル解析)13 3.1
ベクトル場の湧き出し、ガウスの定理と面積分. . . . 13
3.2
ベクトル場の渦、ストークスの定理と線積分. . . . 17
3.3
スカラー場の勾配とグラディエントの積分定理. . . . 20
3.4
演習問題. . . . 22
4
静電場の基本法則23 4.1
渦なしの法則. . . . 23
4.2
静電ポテンシャル(スカラーポテンシャル). . . . 24
4.3
デルタ関数と点電荷. . . . 26
4.4
ガウスの法則. . . . 32
4.5
ポアソン方程式とラプラス方程式. . . . 33
4.6
グリーン関数法. . . . 36
4.7 grad, div, rot
とベクトル記号. . . . 37
4.8
静電場の基本法則のまとめ. . . . 38
4.9
演習問題. . . . 39
5
静電場の求め方40 5.1
電気力線と等電位面による電場の視覚化. . . . 40
5.2
スカラーポテンシャルを経由して計算する. . . . 43
5.3
対称性を利用する. . . . 46
5.3.1
球対称性がある場合. . . . 47
5.3.2 z
軸回りの回転対称性とz
方向の並進対称性がある場合. . . . 48
5.3.3 z
軸回りの回転対称性とx
方向、y方向の並進対称性がある場合. . . . 49
5.4
球座標や円筒座標を使う. . . . 50
5.4.1
球座標でポアソン方程式を解く. . . . 51
5.4.2
円筒座標でポアソン方程式を解く. . . . 53
5.5
演習問題. . . . 53
6
導体とポアソン方程式の境界値問題54 6.1
導体の与える境界条件. . . . 54
6.2
導体表面に誘導される電荷. . . . 54
6.3
境界条件つきグリーン関数. . . . 55
6.4
鏡像法. . . . 56
6.4.1
1平面境界. . . . 56
6.4.2
2平面境界. . . . 57
6.4.3
接地された導体球. . . . 58
6.5
等角写像(共形変換)法. . . . 59
6.6
演習問題. . . . 60
7
静磁場の基本法則61 7.1
重ね合わせの原理と磁力線. . . . 61
7.2
電流と磁場: 右ねじの法則. . . . 62
7.3
電流密度と電荷の保存. . . . 64
7.4
アンペールの法則. . . . 65
7.5
磁場のガウスの法則. . . . 67
7.6
ベクトルポテンシャル、ゲージ不定性とゲージ固定. . . . 67
7.7
ビオ・サバールの法則. . . . 70
7.8
演習問題. . . . 71
8
静磁場の求め方72 8.1
ベクトルポテンシャルを経由して計算する. . . . 72
8.2
対称性を利用する. . . . 79
8.3
アンペール力とローレンツ力. . . . 81
8.4
アンペール力の計算と磁力線を用いた定性的な考察. . . . 84
8.5
静磁場の基本法則のまとめ. . . . 90
8.6
演習問題. . . . 90
9
電磁気学の単位系91 9.1
国際単位系(SI
、現在の定義) . . . . 91
9.2
改訂版国際単位系(新SI) . . . . 93
9.3
ガウス単位系. . . . 94
9.4
ヘヴィサイド・ローレンツ単位系. . . . 96
9.5
演習問題. . . . 96
10
電磁気学II
への展望96
A
電磁気学I
で使う物理数学99
A.1
ベクトルのスカラー積(内積)とベクトル積(外積). . . . 99
A.2
偏微分と全微分. . . . 102
A.3
ガウス積分とデルタ関数. . . . 103
A.3.1
ガウス積分の公式. . . . 103
A.3.2
ガウス分布関数. . . . 106
A.3.3
デルタ関数. . . . 106
A.3.4
階段関数. . . . 108
A.3.5
ガウスの定理とデルタ関数. . . . 108
A.4
ベクトル解析の公式. . . . 109
A.5
直交曲線座標の基本ベクトルと微分・積分. . . . 111
A.5.1
球座標. . . . 112
A.5.2
一般の直交曲線座標. . . . 120
A.5.3
円筒座標. . . . 121
B
線電荷・面電荷/線電流・面電流122 B.1
線電荷. . . . 123
B.2
面電荷. . . . 125
B.3
線電流. . . . 127
B.4
面電流. . . . 129
C
この講義中の数式にあらわれるギリシャ文字131
D
演習問題集133
参考書(電磁気学
I,II
の履修範囲を主に含むもの)この講義ノートは教科書ではなく、説明が不十分な点が多々あるし、講義時間数の制約のためまっ たく解説できない重要な例題も多い。図書館等で複数の参考書を見比べ自分にあったものを購入し 教科書として熟読して講義の不足を補うこと。ただし、市販の参考書でも内容が極端に薄かった り、説明が不十分なものも存在する。そのような極端に薄い教科書は、長期的には無駄になる可能 性があるので注意すること。次の教科書がよく使われている。
•
物理テキストシリーズ「電磁気学」砂川重信著、岩波書店歴史的な経緯も含め、電磁気学の内容が丁寧にまとめられた良書。理解に必要となる事項を 丁寧すぎるくらい丁寧に説明してある。(そのため、多少散漫になって重要なポイントがか えって分かり難いと感じる箇所もある。)この教科書と対になっている演習書をあわせると、
電磁気学
I, II
で履修する学習範囲をおおむねカバーしている。ただし、砂川本とこの講義とでは、説明の順番や基本法則の導出の方法はかなり異なる。この講義では、この参考書ある いは同一著者の演習書での対応箇所を示しながら講義を進めていく予定。おすすめ。
•
基礎物理学シリーズ「電磁気学」横山順一著、講談社独特の語り口で、電磁気学で学習する諸概念やそれらを理解する上で必要となる数学を、そ の導出や意味まで含めて分かりやすく紹介してある。砂川本の説明が、読者に電磁気学の発 見を追体験させるように書いてあるのに対して、横山本では、真空中のマクスウェル方程式 の意味とそのための数学的準備に説明を絞ってある。砂川本の説明が冗長に感じて重要なポ イントがつかめず読み難いと感じる学生向け。考え方の説明が主で、載っている例題の量は 控えめ。横山本とこの講義とでは、基本法則の導出の方法は比較的近いものの、説明の順番 はかなり異なる。おすすめ。
•
物理入門コース「電磁気学I
電場と磁場」「電磁気学II
変動する電磁場」長岡洋介著、岩波 書店説明が丁寧なことで定評のある教科書。ただ、デルタ関数など便利な数学の概念を使わずに 電磁気を説明しているので、その分、分かりにくくなっている箇所もある。この講義では、
物理学全体を履修していく上での便宜を考慮して、デルタ関数などの便利な数学の概念は、
その意味を説明したうえで積極的に使用する。したがって、長岡本だけを使ってこの講義の 内容をすべて理解しようとするのは難しいかもしれない。前述の砂川本、横山本を読んでも 数式や図の表す物理のイメージがうまく掴めない場合に補助的に参照すると良い。
参考書(電磁気学
I,II
の履修範囲を超えるもの)•
「電磁気学」(上・下)、ジャクソン著、西岡訳、吉岡書店基礎から発展までもれなく説明してある良書。ただ、さまざまなトピックスを網羅し演習問 題も大量に載せられているため、分量が多く、すべてを読みこなそうとするとかなりハード ルが高い。アメリカでは大学院生向けとされているが、日本では学部3年〜4年の学生に広 く読まれているようである。
•
「理論電磁気学」砂川重信著、紀伊国屋書店電磁気学
II
の講義の終盤にようやく現れるマクスウェル方程式(電磁気学の基礎法則)を教 科書の出発点にすえることで、電磁気学のさまざまな側面を体系的に説明していくスタイル の教科書。電磁気学II
の講義を履修した後に読み始めると、内容が理解しやすいと思われる。•
「電磁気学の基礎I」「電磁気学の基礎 II」太田浩一著、東京大学出版会
「基礎」というタイトルがついているものの、電磁気学のさまざまな側面を解説した厚めの
テキスト。説明はユニークで面白い。理解に必要となる数学も、詳しく説明してある。電磁 気学の基本法則のみでは理解できず、現実の物質を記述するなんらか模型を導入してはじめ て説明ができるような近似的物理法則(電磁場のもとでの物質のレスポンス)についても、
積極的に解説がなされている。さらに、電磁気学の発展に寄与した多くの科学者の肖像画や 顔写真、人柄や生没年も載せられており、科学史的な興味をもつ学生にとっても楽しめる本 になっている。ただし、その分、ページ数は多め。はじめて電磁気学を習う学生向けの教科 書ではないかもしれない。
•
理論物理学教程「場の古典論」ランダウ、リフシッツ著、恒藤、広重訳砂川「理論電磁気学」の終盤に現れる概念、つまり、相対性原理と解析力学の変分原理を出 発点とすることで、電磁気学や重力理論の基礎法則がどのように理論的に演繹されるかを説 明し、さまざまな物理現象を説明していくスタイルの教科書。したがって、理論のフォーマ リズムとしてはもっとも美しいが、学部1年生や2年生が読みこなすのはかなりの困難を伴 う。理論志望の物理学科学生が3年生後期から4年生にかけて読むのにちょうど良い。
演習書
この講義では基本法則の物理的意味と電磁気学に用いられるベクトル解析や積分の考え方に解説 時間の大部分を割かざるを得ないので、講義時間中にあまり多くの例題を取り上げることはできな い。講義ノート付録
D
の演習問題や講義時間中に出題するレポート問題、小テスト問題は、確実 に解けるようにしておくこと。前述の参考書に載っている問題を解くと良い。演習書は次のものが 良く使われている。•
物理テキストシリーズ「電磁気学演習」砂川重信著、岩波書店前述の同一著者の教科書の姉妹版演習書。教科書といっしょに読み進めるための演習書。電 磁気学
II
で取り上げる内容についての説明と例題が多いので、残念ながら電磁気学I
の範囲 で解くことのできる問題はそれほど多く載っていない。電磁気学II
の履修が済むとほとんど の問題を解けるようになる。•
「詳解電磁気学演習」後藤憲一、山崎修一郎編、共立出版さまざまな演習問題とその略解が集められており、ある意味、頼りになる演習書。電磁気学 の演習問題を解くために必要とされる数学公式もコンパクトにまとめられている。ただし、
電磁気学
I,II
の履修範囲を超えるレベルの演習問題も数多く収集されているので、この講義 の履修範囲で解くことのできる問題を探すのには苦労するかもしれない。その他の参考資料
•
放送大学 オープンコースウェア「場と時間空間の物理—
電気、磁気、重力と相対性理論—
」 米谷民明・岸根順一郎電磁気学の基礎知識から重力の近接作用理論としての一般相対性理論までを
15
回の45
分講 義で説明している。名古屋大学の電磁気学I, II
で説明する内容は、放送大学講義では、第1
回から第6
回までに網羅されている。(電磁気学I
の講義で取り扱う内容は、放送大学の第1
回, 第2
回(の一部),第3
回, 第4
回講義に対応する。)これらの講義のビデオはインター ネットに公開されているのでいつでも視聴でき、電磁気学の全体像を短時間で概観するのに 役だつ。とくに、米谷氏による第1
回講義と第2
回講義はコンパクトにまとめられている。•
放送大の岡部洋一著の著者の長年の講義経験が生かされており、多くの学生にとって役に立つ。とくに、電磁気学
を履修した際に悩む「パラドックス」がたくさん紹介されており、この部分を読むだけでも、
自分の理解が曖昧なままに止まっている箇所を洗い出すことができるようになっている。
• Feynman Lectures on Physics Volume II
ファインマンの有名な教科書
“Feynman Lectures on Physics”
のVolume II
も面白い。日本語 訳もあるが、この教科書はCaltech
のウェブページhttp://www.feynmanlectures.caltech.edu/
で自由に読むことができる。この教科書は初学者にお勧めできるタイプの本ではないが、一 度、電磁気学を履修した後で目を通すと、理解を深めるのにとても役立つ。
関連する科目と物理数学の知識
次にリストする科目では、電磁気学
I
の講義で使用する物理数学の知識の一部が説明される。電 磁気学I
の講義では、これらの科目を履修していることを前提にはしないが、これらの物理数学に 関しては、多少、駆け足の説明にならざるを得ない。以下の物理数学のキーワードに心当たりがな く、電磁気学I
の講義についてこれなくなった場合は、この講義ノートの付録A
を読むこと。ま た、遠慮なく教員に申し出ること。必要に応じて付録A
を解説し、物理数学上の知識を補填する。(単に、公式として結果を利用することに徹する場合もある。)物理数学に関しては、和達三樹著
「物理のための数学」(岩波書店)など、わかりやすい参考書がいくつか出版されているので、必要 に応じて使用するとよい。
•
物理学基礎I(1
年生春学期):電磁気学I
と関連する話題ベクトルのスカラー積とベクトル積、偏微分、全微分、グラディエントなど。
•
物理学基礎演習I(1
年生秋学期):電磁気学I
と関連する話題偏微分、ベクトル解析、円筒座標・球座標、線積分・面積分・体積積分など。
成績
•
基本的に定期試験による。途中でレポートを数回出題するか、出席確認を兼ねて毎回小テス トを実施するかし、その結果を成績に若干加味する。•
講義中に疑問に感じることがあれば、すぐに質問すること。良い質問は、質問者だけでなく 多くの聴衆にとって有益である。講義中になされた良い質問や、この講義ノートの誤りの指 摘には、質問者に特別加点を与える。•
試験の範囲は、このノートでカバーされているすべての項目を含む。不明な点を残さないよ う、途中出題した演習問題・レポート問題をよく復習しておくこと。連絡先
•
電子メール: [email protected]
•
内線: 2859•
部屋: ES719この講義ノートの最新版や、この講義で出題するレポート課題・演習問題を
http://www.eken.phys.nagoya-u.ac.jp/~tanabash/lecture/em1-18/
に置く。
1 はじめに:遠隔作用と近接作用
(参考書
p.6〜)
バネ定数
k
で自然長ℓ
のバネの両端に、質点1
と質点2
をつなぎ、ふたつの質点をそれぞれ⃗ x
1,
⃗
x
2 の位置に置く(下図参照)。このとき、質点2
は質点1
からF ⃗
1→2= k (ℓ − | x ⃗
2− ⃗ x
1| ) ⃗ x
2− ⃗ x
1| ⃗ x
2− ⃗ x
1| (1.1)
の力を受ける。
高校物理でも学習したこのフックの法則の場合は、ふたつの質点の間に存在するバネによって、離 れたふたつの質点の間に力が伝えられている。実際、フックの法則の力の起源は、バネの弾性力に 他ならない。また、自然長からバネを伸縮させたときに生じるエネルギーは、質点ではなく、バネ に蓄えられている。このように、距離の離れた点の間に「なにか」(フックの法則の場合はバネ)
が介在することによって力が伝わることを「近接作用」(action through medium)と呼ぶ。
高校ではまた、位置
⃗ x
1 に存在する点電荷q
1によって、位置⃗ x
2 に存在する点電荷q
2が、F ⃗
1→2= 1 4πϵ
0q
1q
2| ⃗ x
2− ⃗ x
1|
2⃗ x
2− ⃗ x
1| ⃗ x
2− ⃗ x
1| (1.2)
の力を受けることを学習した(下図参照)。
?
つまり、ふたつの電荷の距離の
2
乗に反比例し、ふたつの電荷q
1とq
2が同符号であれば斥力が、異符号であれば引力が生じる。高校の物理では、クーロンの法則(Coulomb’s law)1としてこの 実験事実を学習したが、クーロンの法則において距離の離れたふたつの電荷をつなぐ目に見えない
1式(1.2)のクーロン力に表れる比例係数1/4πϵ0は、ひょっとすると高校物理の教科書ではkと書かれていたかもしれ ない。比例係数を式(1.2)のように書いたのは、現在もっとも一般的な単位系であるSIにあわせるためである。SIでは、
ϵ0(真空の誘電率“permittivity of vacuum”)の値はϵ0≃8.854187817×10−12C2 N−1m−2 である。ここで、電 荷の単位であるクーロン(C)は、電流の単位であるアンペア(A)と時間の単位である秒(s)を使って、1 C = 1 A sで 定義される。力の単位であるニュートン(N)は、いうまでもなく、1 N = 1 m kg s−2である。時間変化する電磁場の基 本法則であるマクスウェル方程式の知識を前提としないと、単位系としてのSIの構造はうまく説明できない。そこで、SI についてここではこれ以上の深入りはせず、電磁気学Iの講義最終日に(このノートでは第9章で)軽く説明する予定で ある。また、ϵ0は「真空の誘電率」という深淵そうな名称で呼ばれているため初学者が(その意味を探ろうとして)戸惑 うことがあるが、実はϵ0 は単位系の取り方によってどのようにでもできる量なので、単位系をSIにとった場合に生じる 適当な比例係数だと気楽に受け取っておいたほうが良い。
「なにか」(上図の?マーク)についての詳しい説明はなかったのではないだろうか。ふたつの離れ た点の間に、なにものも媒介させず瞬時に力が伝わることを「遠隔作用」(action at distance)と呼 ぶ。高校物理の範囲内では、遠隔作用の力としてクーロン力を捉えても矛盾を生じることはなかっ た。ではクーロン力
(1.2)
は、遠隔作用の力なのだろうか?近接作用であるか遠隔作用であるかを決定的に区別するためには、時刻
t
1で⃗ x
1の位置を動かし てみれば良い。離れた点⃗ x
2での力が瞬時に(つまり同時刻t
2= t
1で)変化するのであれば、遠隔 作用であると考えて良いし、逆に、⃗ x
2での力が変化する時間が少し遅れてt
2> t
1であれば、近接作 用の考え方が正しい。この場合、近接作用での「なにか」が力を伝えるのに有限の時間t
2− t
1> 0
を必要としたのである。実際、フックの法則の場合は、点⃗ x
1を微小に動かしたとき、そのことが 点⃗ x
2での力の変化として伝わるには、バネ中の音速が決定する有限の時間が必要である。実は、クーロン力に代表される電磁気の力も近接作用であり、それを伝える「なにか」とは、「電場・磁 場(電磁場)」2と呼ばれる「場」だと考えられている。電荷を微小に揺らすと、電磁場の揺らぎとば して電磁波
“electromagnetic wave”
の放射が起き、電荷から電磁波、つまり光が放出される。2 年生前期に履修する電磁気学II
では、時間とともに変化する電磁場E(⃗ ⃗ x, t), B(⃗ ⃗ x, t)
を取り扱う。そこでは、
•
バネがエネルギーが蓄えるのと同様に、電磁場もエネルギーを蓄えること•
バネが張力を持つのと同様に、電場や磁場を記述する電気力線や磁力線にも張力や反発力が あること•
音波によってエネルギーや運動量が運ばれるのと同様に、電磁波もエネルギーや運動量を運 ぶこと•
電磁場が力を伝えるには、電磁波の速さ(光速c ≃ 3 × 10
8m/s)で決定される有限の時間
が必要であることを学ぶ。残念ながら、電磁気学
I
の講義では、静電場E(⃗ ⃗ x)
と静磁場B(⃗ ⃗ x)
(時間t
とともに変化し ない電場・磁場)のみを取り扱う。そのため、電磁気学I
の範囲内では、電磁力が近接作用である ことの確定的な証拠を示すことができない3が、いくつかの状況証拠は示すことができる。(たと えば、クーロン力が距離の2
乗に反比例することは、近接作用による場の考え方で自然に説明する ことができる。)現在までに知られている力は、すべてなんらかの「場」を媒介とする近接作用として理解するこ とができ4、「場」が媒介する近接作用のアイデアは、物理学だけでなく現代科学の根幹をなす重 要な考え方になっている。電磁気学
I
では、静電場・静磁場の性質(多くはすでに高校物理で履修2 電場“electric field”と 磁場“magnetic field”をまとめて 電磁場“electromagnetic field”と呼ぶ。なお、物理分
野では“field”の訳語として「場」という漢字を用いるのに対し、工学分野では「界」という文字を使うのが通例になって
いるようである。そのため高校物理の教科書では、「電場(電界)」あるいは「電界(電場)」と表記されていることが多い。
物理分野では、電場・磁場以外にもさまざまな“field”が登場し、それらはすべて「場」という漢字を使って訳語が作られ ている(例:重力場、速度場など)。そこで、この講義では、「電界」「磁界」「電磁界」ではなく「電場」「磁場」「電磁場」
という呼び方で統一する。ただし、この講義では出てこないが、技術用語については“field”の訳語として物理分野におい ても「界」を使うのが一般的。例えば、FET (field effect transistor)は、物理学でも、通常、電界効果トランジスタと翻 訳される。さらに言えば、数学の概念である「たい体」は、物理での「場」とは全く異なる概念であるが、英語では“field”と いう単語で呼ばれるので、しばしば笑い話の種になる。数学での日本語の「たい体」はドイツ語の“K¨orper”の翻訳(ほぼ直 訳)らしい。この概念を英語で呼ぶときに、“field”という言葉が使われている。書店の洋書コーナーで、物理での「場の 理論」の教科書と数学の「体の理論」の教科書が並んでいるのを見かけたことがある(両方とも英語のタイトルは”Field Theory”)。ちなみに、物理での“field”はドイツ語では“Feld”なので、ドイツ語を使うことができればおそらく混乱が もっとも少ない。
3そのため、電磁気学Iを履修しただけでは、遠隔作用で記述すれば簡単な法則をあえて面倒な近接作用の書き方で書 き直しているだけのようにも見えかねない。
4 遠隔作用としてのニュートン重力理論は、アインシュタインによって一般相対性理論(重力場による近接作用理論)
に書き換えられた。この理論の予言する重力波が実際に発見されたことは記憶に新しい。LIGO検出器で初観測(2015年
したもの)を、近接作用の考え方に則った基本法則に還元していく作業を行う。電磁気学
I
を履修 して電磁場の近接作用による記述について興味を抱いた学生は、ぜひ電磁気学II
まで継続して履 修して、近接作用による電磁気力の記述の必然性について理解を深めて欲しい。電磁気学
I
で取り扱う内容:
•
静止した電荷のまわりに生じる静電場(時間に依らない電場)•
定常電流のまわりに生じる静磁場(時間に依らない磁場)電磁気学
I
の到達目標:
•
静電場と静磁場の基本法則を近接作用の見方で理解する。特に、電磁気現象を、電気力線や 磁力線を使った「場」のイメージで捉えることができるようになる。•
上記の基本法則を数式として記述するベクトル解析の手法を身につける。•
電磁気の問題を解く上で必要となる技法(デルタ関数やグリーン関数)を理解し、場の概念 を本格的に学ぶ電磁気学II
に向けた準備を整える。9月14日)、LIGO/VIRGO Collaborationによるプレプリント(2016年2月11日)、2017年ノーベル物理学賞、R.
Weiss, B.C. Barish, K.S. Thorne.
2 電場と電荷密度
2.1 クーロン力と電場
(参考書
p.3〜)
位置
⃗ x
2に存在する点電荷q
2は、位置⃗ x
1に存在する点電荷q
1によって、F ⃗
2= 1 4πϵ
0q
1q
2| ⃗ x
2− ⃗ x
1|
2⃗ x
2− ⃗ x
1| ⃗ x
2− ⃗ x
1| (2.1)
で表されるクーロン力を受ける。表式
(2.1)
は、電場E(⃗ ⃗ x)
によって点電荷q
2が受ける力F ⃗
2を表 す表式F ⃗
2= q
2E(⃗ ⃗ x
2), (2.2)
と、電場
E(⃗ ⃗ x)
自体を与える表式E(⃗ ⃗ x) = 1 4πϵ
0q
1| ⃗ x − ⃗ x
1|
2⃗ x − ⃗ x
1| ⃗ x − ⃗ x
1| , (2.3)
とに分けて書き直すことができる。式
(2.3)
で与えられる電場E(⃗ ⃗ x)
は、電荷q
2 が存在する場所⃗
x
2 だけでなく、あらゆる場所⃗ x
に存在することに注意すること。もちろん、ふたつの点電荷のあ いだの空間にも電場E(⃗ ⃗ x)
は存在しており、前章で考えた「なにか」(?マーク)の資格がある。こ の意味で、式(2.3)
による電場の概念の導入は、⃗x
2に存在する点電荷q
2にはたらく力のみを記述 していた式(2.1)
に比べて思考のジャンプになっている。場所
⃗ x
(と時間t)を指定すれば一意的に決定できる量のことを物理学では「
ば
場」と呼ぶ。特に ベクトルで表される場のことは「ベクトル場」と呼ばれ、電場
E ⃗
はベクトル場の代表例になって いる。2.2 重ね合わせの原理とベクトル場の足し算
(参考書
p.10〜)
位置
⃗ x
1, ⃗ x
2, · · · , ⃗ x
N に存在する点電荷q
1, q
2, · · · , q
N によって、位置⃗ x
N+1の点電荷q
N+1は、クーロン力
F ⃗
N+1= 1 4πϵ
0∑
N n=1q
nq
N+1| ⃗ x
N+1− ⃗ x
n|
2⃗
x
N+1− ⃗ x
n| ⃗ x
N+1− ⃗ x
n| (2.4)
を受ける。この場合のクーロン力の表式(2.4)
も、電場E(⃗ ⃗ x)
によって電荷q
N+1が受ける力の表式F ⃗
N+1= q
N+1E(⃗ ⃗ x
N+1), (2.5)
と、電場E(⃗ ⃗ x)
を決定する表式E(⃗ ⃗ x) = 1 4πϵ
0∑
N n=1q
n| ⃗ x − ⃗ x
n|
2⃗ x − ⃗ x
n| ⃗ x − ⃗ x
n| , (2.6)
とに分けて書き直すことができる。電場の表式
(2.6)
は、個々の電荷q
nが単独で作る電場E ⃗
n(⃗ x) = 1
4πϵ
0q
n| ⃗ x − ⃗ x
n|
2⃗ x − ⃗ x
n| ⃗ x − ⃗ x
n| (2.7)
のベクトルとしての合計として
E(⃗ ⃗ x) =
∑
N n=1E ⃗
n(⃗ x) (2.8)
のように書けることに注意しよう。つまり、電荷
q
nの存在は、他の電荷q
n′(n
′̸ = n)
のつくる電 場E ⃗
n′(⃗ x)
には影響を与えない。式
(2.8)
の右辺に表れる電場の足し算のことを電場の「重ね合わせ」と呼ぶ。つまり、式(2.8)
は、『電荷
q
1, q
2, · · · , q
N が全体として作る電場E(⃗ ⃗ x)
は、電荷q
1, q
2, · · · q
N がそれぞれ単独で 作る電場E ⃗
1, E ⃗
2, · · · , E ⃗
N の重ね合わせで与えられる』ということを意味している。この性質を、静電場の「重ね合わせの原理」と呼ぶ。
2.3 電荷密度と体積積分
(参考書
p.13〜)
前節の説明では、不満を感じる学生が多数いるはずだ。なぜ、点電荷が
N + 1
個あるのに、点 電荷q
N+1にはたらく力を計算するときの電場の計算(2.6)
では、N個の電荷q
1, · · · , q
N の寄与の みを合計していたのだろうか?q
N+1 自身のつくる電場E ⃗
N+1(⃗ x) = 1 4πϵ
0q
N+1| ⃗ x − ⃗ x
N+1|
2⃗
x − ⃗ x
N+1| ⃗ x − ⃗ x
N+1| (2.9)
の寄与は考えなくてもよいのだろうか?しかし、電場
(2.9)
によって、点電荷q
N+1が受ける力を 求めようとするとq
2N+14πϵ
0⃗
x
N+1− ⃗ x
N+1| ⃗ x
N+1− ⃗ x
N+1|
3= ⃗ 0
0 (2.10)
となってしまって、結果が不定になってしまう!
この困難は、実は、「点電荷」という1点に電荷が集中している状況を考えたことによるテクニ カルなものである。そこで、
1
点に集中して存在する点電荷ではなく、空間的に拡がって存在する 電荷を考えよう。このように電荷が空間内に連続的に分布する場合は、電荷密度ρ(⃗ x)
という量を 用いると電荷の分布の取り扱いがやりやすい。電荷が拡がって分布している空間領域を
N
個の微小な直方体に等分割する。そのうちのn
番目 の直方体として、座標⃗ x
nにある下図のような直方体を考え、その頂点の位置が⃗
x
n, ⃗ x
n+ ⃗ e
xdx, ⃗ x
n+ ⃗ e
ydy, ⃗ x
n+ ⃗ e
zdz,
⃗
x
n+ ⃗ e
ydy + ⃗ e
zdz, ⃗ x
n+ ⃗ e
xdx + ⃗ e
zdz ⃗ x
n+ ⃗ e
xdx + ⃗ e
ydy, ⃗ x
n+ ⃗ e
xdx + ⃗ e
ydy + ⃗ e
zdz
で与えられるものとしよう。もちろん、ここでn
は1 ≤ n ≤ N
を満たす整数である。分割数
N
を十分に大きくとり、dx, dy, dz
を無限小量にしておこう。この微小な直方体の体積をd
3V = dx dy dz (2.11)
とし、この体積に含まれる電荷を
q
nとする。いま、連続的に拡がっている電荷分布を考えている ので、電荷密度ρ(⃗ x)
はこの直方体内で一様であると考えて良く、qnはq
n= d
3V ρ(⃗ x
n) (2.12)
で与えられる。この電荷分布に含まれる全電荷
Q
を求めるには、Q =
∑
N n=1q
n=
∑
N n=1d
3V ρ(⃗ x
n)
=
∫
V
d
3V ρ(⃗ x) (2.13)
を計算すれば良い。ここで、和の記号での
N
が十分に大きいとして、最終的な表式が区分求積の 意味での定積分を用いて表されていることに注意。電荷が存在している領域をV
とし、定積分の 積分範囲として、∫
V
の形で表した。(式
(2.13)
の積分は不定積分ではないことに注意。電磁気で は、今後あちこちに積分が表れるが、積分範囲を明記しない場合も含め、大抵の場合は区分求積の 意味での定積分である。)式
(2.13)
にあらわれる定積分は、体積d
3V
の積分なので体積積分と呼ばれる。体積積分を式に表すに際しては、いくつかのやり方があり、それぞれに長所と短所がある。参考書ごとに微妙に式 の書き方が異なっているので、初学者は混乱するかもしれない。ここでは、いくつかの表記法につ いて紹介したのち、この講義で使用する表記について説明することにする。
•
高校以来、もっとも慣れている表記は、式(2.13)
の積分を∫
xの上限 xの下限(∫
yの上限 yの下限(∫
zの上限 zの下限ρ(⃗ x)dz )
dy )
dx (2.14)
と書く表記法だろう。このように表記すれば、具体的にどのように積分計算を実行すれば良 いのかが明快になるという利点がある。しかしながら、ちゃんと括弧を書かないと、どの積 分記号
∫
が
dx, dy, dz
のどれと対応しているのかが分かり難い。•
前述の問題は、積分のなかでdx, dy, dz
を書く場所を工夫して∫
xの上限 xの下限dx
∫
yの上限 yの下限dy
∫
zの上限 zの下限dz ρ(⃗ x) (2.15)
とするとかなり改善する。この講義でも、具体的に全電荷を計算したいときは、この表記を 採用する。
•
電磁気の基本法則を理解するためだけの目的には、具体的にどこに電荷が存在するのかを明 示する必要がない場合が多い。この場合は、抽象的に、領域V
に存在する電荷をコンパクト に表す表記があれば十分である。このように考えて、∫ ∫ ∫
V
dx dy dz ρ(⃗ x) (2.16)
と表記する教科書もある。
•
積分記号を3つも書くのは冗長であると考える教科書著者は多い。例えば砂川本やJackson
のテキストでは、体積積分は、∫
V
ρ(⃗ x)d
3x (2.17)
と簡潔に記述されている。この記号法を採用する場合は、体積積分であることは
d
3x
の記号 から読み取ることになる。しかしながら、体積積分に対してこの記号法を使っても、後の節 で表れる面積分や線積分の記述では、まったく異なる記号法を採用せざるを得なくなる。•
面積分や線積分との対応を考慮し、体積積分を∫
V
dV ρ(⃗ x) (2.18)
ないしは
∫
V
ρ(⃗ x)dV (2.19)
と記述する記号法を採用する著者も多い。この場合、体積積分
(volume integral)
であること 示すのは、微小体積要素を表す記号dV
であり、ここでのV
はvolume
の頭文字である。•
日本語での電磁気の講義で、微小体積要素の表記をdV
だけで済ますのは、少し(個人的に)心もとない。そこでこの講義では、微小体積要素の表記を
d
3V
とし、体積積分を∫
V
d
3V ρ(⃗ x) (2.20)
と書くことにする。この表記は、分かりやすさを重視した一種の折衷案。権威のある教科書 で採用されている表記法というわけではないので注意。
場所
⃗ x
での電場E(⃗ ⃗ x)
を計算するには、電荷の存在する3次元領域すべてにわたって電荷d
3V
′ρ(⃗ x
′)
の影響を足し上げ、体積積分E(⃗ ⃗ x) = 1 4πϵ
0∫
d
3V
′ρ(⃗ x
′)
| ⃗ x − ⃗ x
′|
2⃗ x − ⃗ x
′| ⃗ x − ⃗ x
′| (2.21)
を実行すれば良い。ここで、無限小体積要素
d
3V
′ はd
3V
′= dx
′dy
′dz
′(2.22)
で定義されており、体積積分
(2.21)
は、電荷密度ρ(⃗ x
′)
がゼロでないあらゆる場所⃗ x
′ について足 し上げることを意味している。なお、表式(2.21)
での積分には積分範囲が明記されていないが、さ きほど述べたように、これは電荷が存在するすべての領域での区分求積の意味での定積分である。さらに、領域
V
内の電荷が受けるクーロン力F(V ⃗ )
がF ⃗ (V ) =
∫
V
d
3V ρ(⃗ x) E(⃗ ⃗ x) (2.23)
の形の体積積分で与えられることも明らかだろう。
また、式
(2.21)
と式(2.23)
を組み合わせると、3次元領域V
′内の電荷密度ρ(⃗ x
′)
によって、3 次元領域V
の電荷密度ρ(⃗ x)
にはたらく力がF ⃗ (V
′→ V ) = 1 4πϵ
0∫
V
d
3V
∫
V′
d
3V
′ρ(⃗ x) ρ(⃗ x
′)
| ⃗ x − ⃗ x
′|
2⃗ x − ⃗ x
′| ⃗ x − ⃗ x
′| (2.24)
であることがわかる。次節での具体例で見るように、電荷密度
ρ(⃗ x)
がどこかに集中せず空間的に 拡がっている場合は、式(2.24)
の積分は、たとえV = V
′ と選んだ場合であっても不定性なく計 算することができる。これは数学的には、無限小体積要素d
3V
′によって、被積分関数に含まれる1/ | ⃗ x − ⃗ x
′|
3による無限大が打ち消されることによる。積分が数学的によく定義されている場合には、
V = V
′の力F(V ⃗ → V )
は、次のように計算し て求めることができる。F ⃗ (V → V ) = 1 4πϵ
0∫
V
d
3V
∫
V
d
3V
′ρ(⃗ x) ρ(⃗ x
′)
| ⃗ x − ⃗ x
′|
2⃗ x − ⃗ x
′| ⃗ x − ⃗ x
′|
= 1
4πϵ
0∫
V
d
3V
′∫
V
d
3V ρ(⃗ x
′) ρ(⃗ x)
| ⃗ x
′− ⃗ x |
2⃗ x
′− ⃗ x
| ⃗ x
′− ⃗ x |
= 1
8πϵ
0∫
V
d
3V
∫
V
d
3V
′ρ(⃗ x) ρ(⃗ x
′)
| ⃗ x − ⃗ x
′|
2⃗
x − ⃗ x
′+ ⃗ x
′− ⃗ x
| ⃗ x − ⃗ x
′|
= ⃗ 0 (2.25)
ここで、1行目から
2
行目への式変形では、積分変数の入れ替え⃗ x ↔ ⃗ x
′ を行った。3行目は、1行 目と2
行目を足して2で割ったものである。式(2.25)
の結果は、クーロン力における作用反作用 の法則F ⃗ (V
′→ V ) + F ⃗ (V → V
′) = ⃗ 0 (2.26)
を使ってV = V
′の場合を考察することによっても、容易に示すことができる。いずれにせよ、式
(2.25)
の結果であるF(V ⃗ → V ) = ⃗ 0 (2.27)
は、領域
V
の電荷密度から生じる電場によって、領域V
自身に力が加わることがないことを意味 している。このことによって、電荷にはたらく力を計算するときに、自分自身のつくる電場の影 響を「手で落とす」という前節の操作の不自然さ5を解消することができる。また、一部の影響を「手で落とす」という不自然な操作を排除できたことによって、空間内のすべての点
⃗ x
で(その場 所での電荷の有無に関わらず)電場E(⃗ ⃗ x)
の表式(2.21)
を使うことが正当化されたことにも注意し て欲しい。2.4 媒介変数を用いた体積積分の計算
体積積分を具体的に実行する際、デカルト座標
(x, y, z)
での具体的な表式(2.15)
をそのまま使っ て計算するのは手間がかかることが多い。たとえば、半径a
の球の内部に電荷密度ρ(⃗ x)
で拡がっ ている場合の全電荷を評価するのに、(2.15)をそのまま適用するとQ =
∫
+a−a
dx
∫
+√ a2−x2−√ a2−x2
dy
∫
+√
a2−x2−y2
−
√
a2−x2−y2
dzρ(⃗ x) (2.28)
を計算せねばならず、積分の上端と下端の取り扱いが複雑になってしまう。
5実際、電荷が加速度運動している場合には、その電荷には自分自身から生じる電場からゼロではない力(自己力)が加 わる。したがって、「手で落とす」という操作は、いつでも正当化できるわけではない。加速度運動する電荷が感じる「自 己力」の計算は少し難しい。しかし、電磁気学IIまで履修した後であれば、砂川演習書p.220〜等を読むことで、自己力 についても自習できるレベルに到達しているはずである。
このような場合は、座標ベクトル
⃗ x = x⃗ e
x+ y⃗ e
y+ z⃗ e
z に1対1対応する媒介変数(s, t, u)
を用 意して、座標ベクトル⃗ x
を(s, t, u)
の3変数関数⃗
x = ⃗ x(s, t, u) (2.29)
だと考える。このとき、デカルト座標での座標変数
(x, y, z)
は、それぞれが(s, t, u)
の3変数関数x = x(s, t, u), y = y(s, t, u), z = z(s, t, u) (2.30)
になる。媒介変数(s, t, u)
を上手に選び、積分変数をx, y, z
から 媒介変数s, t, u
に置き換えると 計算が簡単にできることが多い。つまり、Q =
∫
V
d
3V ρ(⃗ x) =
∫ ∫ ∫
V
dx dy dz ρ(⃗ x) =
∫ ∫ ∫
V
ds dt du ∂(x, y, z)
∂(s, t, u) ρ(⃗ x(s, t, u)) (2.31)
を用いて体積積分を評価するのである。ここで、∂(x, y, z)
∂(s, t, u) := det
∂x
∂s
∂x
∂t
∂x
∂u
∂y
∂s
∂y
∂t
∂y
∂u
∂z
∂s
∂z
∂t
∂z
∂u
(2.32)
は、この積分変数の取り替えに対応するヤコビアン(ヤコビ行列式)と呼ばれる行列式である。偏 微分記号
∂
の使い方に馴染みのない学生は、付録A.2
を見ること。なぜ、この積分変数の取り替えでヤコビアンがあらわれるかの理由を納得するために、媒介変数
s
を無限小ds
だけ変化させたときの位置ベクトル⃗ x
の移動ds ∂⃗ x
∂s = ds ( ∂x
∂s ⃗ e
x+ ∂y
∂s ⃗ e
y+ ∂z
∂s ⃗ e
z)
(2.33)
を考えてみよう。同様に、媒介変数t
をdt
だけ変化させたときの位置ベクトル⃗ x
の移動と、uをdu
だけ変化させたときの⃗ x
の移動は、dt ∂⃗ x
∂t = dt ( ∂x
∂t ⃗ e
x+ ∂y
∂t ⃗ e
y+ ∂z
∂t ⃗ e
z)
, (2.34)
du ∂⃗ x
∂u = du ( ∂x
∂u ⃗ e
x+ ∂y
∂u ⃗ e
y+ ∂z
∂u ⃗ e
z)
(2.35)
で与えられる。ふたつの無限小ベクトルds ∂⃗ x
∂s
とdt ∂⃗ x
∂t
のなす平行四辺形の向きと面積は、ベク トル積ds dt ∂⃗ x
∂s × ∂⃗ x
∂t (2.36)
を計算することで求められる(下図参照)。
この平行四辺形を底面とし、もうひとつの辺が無限小ベクトル
du ∂⃗ x
∂u
で与えられる平行六面体の 体積がd
3V = ds dt du ( ∂⃗ x
∂s × ∂⃗ x
∂t )
· ∂⃗ x
∂u (2.37)
であることは明らかだろう(下図参照)。
このことから、
d
3V = ds dt du ( ∂⃗ x
∂s × ∂⃗ x
∂t )
· ∂⃗ x
∂u
= ds dt du ( ∂⃗ x
∂t × ∂⃗ x
∂u )
· ∂⃗ x
∂s
= ds dt du ( ∂⃗ x
∂u × ∂⃗ x
∂s )
· ∂⃗ x
∂t
= ds dt du det
∂x
∂s
∂x
∂t
∂x
∂u
∂y
∂s
∂y
∂t
∂y
∂u
∂z
∂s
∂z
∂t
∂z
∂u
(2.38)
となって、積分変数の取り替えで、ヤコビアン
(2.32)
があらわれるのである。具体例として、半径
a
の球の内部に電荷密度が一様に分布している場合ρ(⃗ x) =
{
¯
ρ for x
2+ y
2+ z
2≤ a
20 for x
2+ y
2+ z
2> a
2(2.39)
を考えよう。ここでρ ¯
は定数である。媒介変数として、r,θ, φ
を選び、x = r sin θ cos φ, y = r sin θ sin φ, z = r cos θ (2.40)
としておく6。6 この媒介変数の選びかたは、あとで紹介する球座標の選びかたにちょうど対応している
地球儀を想像して、角度変数
θ
は「緯度」に対応するものとし、φを「経度」に対応する角度変数 だと考えると、この媒介変数の選び方を理解しやすい。ヤコビアンを計算すると∂(x, y, z)
∂(r, θ, φ) = r
2sin θ (2.41)
が得られる。このときの無限小体積要素は
d
3V = ∂(x, y, z)
∂(r, θ, φ) dr dθ dφ = dr rdθ r sin θdφ (2.42)
である。緯度θ
を微小に変化させたときの位置の移動の大きさがrdθ
であることと、経度φ
を微 小に変化させたときの位置の移動の大きさがr sin θdφ
であること(sinθ = 0
の場所、つまり、北 極や南極では、経度φ
を変化させても位置は移動しないことに注意)に着目して、式(2.42)
の結 果を理解することもできる。全電荷Q
は、Q =
∫
a 0dr
∫
π 0dθ
∫
2π 0dφ r
2sin θ ρ ¯
= 4π
3 a
3ρ ¯ (2.43)
と計算できる。式
(2.43)
にあらわれる係数(4π/3)a
3は、半径a
の球の体積そのものである。電荷密度
(2.39)
が座標点⃗ x = (0, 0, z)
に作る電場E(0, ⃗ 0, z)
も、体積積分(2.21)
を計算すること で評価できる。例えば、電場E(0, ⃗ 0, z)
のz
成分を求めるには、E
z(0, 0, z) = 1 4πϵ
0∫
a 0dr
∫
π 0dθ
∫
2π 0dφ r
2sin θ (z − r cos θ) ¯ ρ ( (z − r cos θ)
2+ r
2sin
2θ )
3/2= 1
2ϵ
0∫
a 0dr r
2∫
π 0dθ sin θ (z − r cos θ) ¯ ρ
(z
2+ r
2− 2zr cos θ)
3/2(2.44)
の積分を実行できれば良い。ここで、媒介変数r, θ, φ
は、元々の積分変数x
′, y
′, z
′とはx
′= r sin θ cos φ, y
′= r sin θ sin φ, z
′= r cos θ (2.45)
で関係付けられている。積分
(2.44)
を実際に計算するのはそれなりに大変だが、この積分は、この講義で初めて出くわす非自明な体積積分の具体例なので、実際に手を動かして計算しよう。まず、変数
ζ
をζ = cos θ
と置いて、積分変数
θ
をζ
に変数変換する。このようにすると、dζ = − dθ sin θ
なので、式(2.44)
の積分がE
z(0, 0, z) = ρ ¯ 2ϵ
0∫
a 0drr
2∫
+1−1
dζ z − rζ
(z
2+ r
2− 2zrζ)
3/2の形になって、被積分関数から三角関数をなくすことができる。次に
ζ
積分を実行するには、微分 計算の結果d dζ
(
r − zζ
√ z
2+ r
2− 2rzζ )
= − z
2(z − rζ) (z
2+ r
2− 2zrζ )
3/2 を逆に使って、積分を実行すれば良い。その結果は、∫
+1−1
dζ z − rζ
(z
2+ r
2− 2zrζ)
3/2= [
− r − zζ z
2√
z
2+ r
2− 2rzζ ]
+1ζ=−1
=
2 z
2z
| z | for | z | > r 0 for r > | z |
という簡単な形をしており、E
z(0, 0, z)
の積分はE
z(0, 0, z) = ρ ¯ ϵ
0∫
min(a,|z|) 0drr
21 z
2z
| z | = ρ ¯
3ϵ
0(min(a, | z | ))
31 z
2z
| z |
=
¯ ρa
33ϵ
01 z
2z
| z | for | z | > a
¯ ρz 3ϵ
0for a > | z |
(2.46)
と計算できる。ここで、min(a,
| z | )
はふたつの引数a
と| z |
のうち、より小さいほうの値を返す関 数である。なお、電場
E(0, ⃗ 0, z)
のx
成分やy
成分を計算するのはもっと簡単であり、φ積分を実行した段 階で、E
x(0, 0, z) = 0, E
y(0, 0, z) = 0
であることが分かる。式
(2.46)
の計算結果を見ると、大変シンプルな形をしていることがわかる。この節で紹介した計算は、式
(2.21)
の体積積分を愚直に実行するもので、はなはだ見通しの悪いものであった。より 見通しがよく、物理の理解しやすい計算を行えば、シンプルな結果(2.46)
をもっと分かりやすく得 ることができそうに思える。実際、そのような計算のやり方が存在し、後に5.3
節で説明する。2.5 演習問題
付録